「初体験」

何年も前、まだ結婚もしておらず、ダンさんとも知り合っていなかった、ういういしきあの頃の話。

私の実家は狭くてふるい、マンションである。

部屋どうしは薄い襖一枚でへだてられているだけ。
それでも怖がりの私は、夜寝る時には、隣の両親の部屋との境を開け放っていないと、眠れなかった。

そんなある夜、夜中3時すぎだろうか、ふと私は目を覚ました。
原因は、隣の部屋のがさごそいう気配。
薄目を開けて見ていると、父親が起き上がり、ぬぼ〜っとトイレに行ったらしい。
しばらくして部屋に戻ってきた父親が、廊下の襖を「後ろ手で閉める(いつものクセだった)」のを確認し、私は安心して寝返りをうとうとした。
「……なに……」体が。

体が。

体が動かへん!!!


朦朧としながら、意識の端で感じていた。

布団の下から、誰かが私の両手首をつかんでる……!!!

熱い。

でも、見たらアカン……!!!

見たら、絶対連れていかれる……!!!


ほんまに、怖かったんやから。
しかも翌日、父親にそのことを話したら、「オレ昨日はトイレなんか行ってないで」

とあっさり言われた。
そういや、今朝見たら、父はちゃんとパジャマ着てたよなぁ……。
パッチ上下なんかじゃなかった。
一体、あれはダレやったんやろう?!と言うと、

「夢や、夢」
と返された。

むなしかった。



モドル モクジ